アルゼンチン映画「笑う故郷」

Ví una película que se llama ”El ciudadano ilustre"
三連休映画評論第二弾は、現在公開中のブラックユーモア満載なアルゼンチン映画!「笑う故郷」

主役がベネチア国際映画祭主演男優賞を受賞したのをはじめとして各国で高く評価されているのも頷ける作品だ。

映画はアルゼンチン出身バルセロナ在住の作家ダニエルがノーベル賞を受賞するところから始まる。受賞は、嬉しい反面、芸術家として権威にとって都合がいいと思われてしまったということであり苦々しく思うとスピーチするダニエル。
その受賞後、5年間作品をかけないでいた彼の元に故郷であり、作品のモチーフとなっていたアルゼンチンの田舎町サラスから招待状が届き、40年ぶりに彼は一人で故郷へ向かう。
そこでは、同郷というだけで都会にはない馴れ馴れしいくらいの距離感でダニエルに接し、ノーベル文学賞受賞という権威を崇める村人たちが待っていた。普段受けないような洗練されているとは言い難い歓迎に戸惑いながらも喜びを感じるダニエルだったが、日が経つにつれ、町は彼に対する嫉妬、羨望、そして故郷をアイロニカルにかつ批判的に描く彼への批判がどんどんとうずまいていき、ダニエルの周りではトラブルが多発し始め、どんどん火種は大きくなっていきついには・・・

作品全体がブラックユーモア満載なのだが、くすりと笑えるシーンが多く、ラストも面白かった。

田舎から都会に出て来て長い人は、地元の人となんだか話が合わない、と感じることがあるのではないだろうか。また、都会の出身の人も田舎へ行って文化の違いを感じることがあると思う。
サラスの町の人から見れば、ダニエルはキザで都会に住んでいることを匂わせながら、自分たちの生活を間接的に批判する鼻持ちならない、故郷を捨てたやつであり、ダニエルにとってサラスの町の人たちは進歩がなく、権威主義で芋くさく、両者は結局分かり合えない。

私は、本作を観たとき魯迅の「故郷」を思い出した。読んだことなのない人のために説明すると、
「故郷」は浙江省の田舎町から東北大学に留学し、その後杭州や北京などの大都会に住んだ魯迅が故郷に帰ったときに近所のなんとか小町と呼ばれていたおばさんは見る影もなくなっていて、一緒に遊んだ鳥をとるのが上手で主人公が知らないことをたくさん知っていたため輝いて見えた同い年の少年は、卑屈な大人になっていて、思っていたより故郷がいい場所でなかったことに気がつく話である。都会の文化を学んだことで、田舎の習慣に戻れなくなり故郷をなくした知識人の哀愁が描かれている。

故郷では、魯迅はだんだんと故郷の記憶が薄れていくと書いていたがそれでも、「故郷」と言う作品を書いた。
ダニエルも結局作品は故郷から出ることができず、故郷を乗り越えることのできない作家は故郷から逃れられなかった
結局誰も生まれ育った環境から完全に自由になることはできないのだ。

 

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